全固体電池とは

2025年3月16日

全固体電池とは?

全固体電池(All-Solid-State Battery, ASSB)は、電解質に液体ではなく固体を用いる次世代の二次電池(充電可能な電池)です。リチウムイオン電池(Li-ion電池)などの従来の電池では、電解質として有機溶媒を含む液体が使われており、これが電極間のリチウムイオンの移動を担っています。一方、全固体電池では、電解質が固体であり、より安全で高エネルギー密度な電池として期待されています。

全固体電池の特長

1. 安全性の向上

従来のリチウムイオン電池では、液体電解質が可燃性であるため、過充電や短絡によって発火や爆発のリスクがあります。これに対し、全固体電池では電解質が不燃性の固体であるため、熱暴走のリスクが大幅に低減されます。

2. 高エネルギー密度

液体電解質を固体電解質に置き換えることで、電極材料の選択肢が広がり、より高エネルギー密度な材料が使用可能になります。例えば、リチウム金属を負極に用いることで、現在のリチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度を実現できます。

3. 長寿命化

液体電解質を使用した電池では、電解液の分解や副反応によって電池の劣化が進行します。しかし、全固体電池では固体電解質がこれらの影響を受けにくいため、長寿命化が期待されています。

4. 動作温度範囲の拡大

液体電解質は低温環境ではイオンの移動が遅くなり、電池性能が低下します。一方、固体電解質は低温でも安定して動作できるため、寒冷地でも高い性能を維持できる可能性があります。

全固体電池の課題

1. 固体電解質の界面抵抗

固体電解質と電極の界面では、イオンの移動が液体電解質に比べて困難になります。このため、界面抵抗を低減する材料設計や加工技術の開発が求められています。

2. 製造コストの高さ

全固体電池の製造には、高温焼結や高圧成形などの高度なプロセスが必要となることが多く、現時点では製造コストが高いという課題があります。

3. 電解質の機械的安定性

固体電解質は電池の充放電時に膨張・収縮する電極と接触しているため、長期間の使用によってクラックが生じる可能性があります。これを防ぐための柔軟な固体電解質や、新しい設計の開発が進められています。

代表的な固体電解質の種類

1. 硫化物系電解質

硫化物系電解質(例:Li10GeP2S12, LGPS)は、高いリチウムイオン伝導性を持ち、比較的柔軟で電極との良好な接触性を示します。しかし、空気中の水分と反応して有毒な硫化水素(H2S)を発生するため、取り扱いには注意が必要です。

2. 酸化物系電解質

酸化物系電解質(例:Li7La3Zr2O12, LLZO)は、化学的に安定で耐久性が高いという特長があります。ただし、イオン伝導度は硫化物系よりも低く、電極との界面抵抗が高いため、改良が求められています。

3. ポリマー系電解質

ポリマー系電解質(例:PEO-LiTFSI)は、柔軟で加工しやすいという利点がありますが、イオン伝導度が低く、特に低温での性能向上が課題となっています。

全固体電池の応用分野

1. 電気自動車(EV)

高エネルギー密度と安全性を兼ね備えた全固体電池は、次世代のEV用電池として期待されています。特に、現在のEVバッテリーと比べて長距離走行が可能になると考えられています。

2. 航空宇宙分野

軽量かつ高耐久な電池が求められる航空機や宇宙機器にも、全固体電池の適用が進められています。

3. ウェアラブルデバイス

小型・軽量で高い安全性を持つことから、スマートウォッチや医療機器などのウェアラブルデバイスにも活用が期待されています。

まとめ

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池と比較して、安全性の向上やエネルギー密度の向上といった多くの利点を持っています。一方で、製造コストや界面抵抗といった課題も存在し、実用化に向けた研究開発が続けられています。今後、全固体電池の技術革新が進めば、EVやウェアラブルデバイスなど幅広い分野での活用が期待されます。