固体電解質とは

2025年3月19日

固体電解質とは?

固体電解質(Solid Electrolyte)とは,イオンを伝導する機能を持つ固体材料のことで,全固体電池(All-Solid-State Battery, ASSB)を実現するための鍵となる技術です.従来のリチウムイオン電池では,有機溶媒を含む液体電解質が用いられていますが,全固体電池ではこの液体電解質を固体電解質に置き換えることで,安全性の向上やエネルギー密度の向上が期待されています.

固体電解質の特徴と利点

1.高い安全性

・液体電解質に比べて可燃性がなく,熱暴走のリスクが低い.

・短絡時の発火や爆発の可能性が大幅に低減される.

2.高エネルギー密度

・リチウム金属を負極に使用可能であり,理論的に高いエネルギー密度を実現できる.

3.長寿命

・液体電解質に比べて化学的に安定であり,副反応が少ない.

4.広い動作温度範囲

・低温でも安定して動作し,高温環境でも劣化しにくい.

固体電解質の種類と比較

固体電解質にはいくつかの種類があり,特に「硫化物系」「酸化物系」「ハライド系」の3つが代表的です.それぞれの特徴を比較しながら解説します.

1. 硫化物系電解質(Sulfide-based Electrolytes)

代表的な材料:

  • Li10GeP2S12(LGPS)
  • Li3PS4
  • Li7P3S11

特徴:

  • 非常に高いリチウムイオン伝導度(10–3~10–2 S/cm)を持つ
  • 柔軟性があり電極との界面接触が良好
  • 低温でも高いイオン伝導性を維持できる
  • 大気中の水分と反応して硫化水素(H2S)を発生するため,取り扱いに注意が必要

利点:

  • 最も高いイオン伝導度を持ち全固体電池の有力候補
  • 柔軟性があり界面抵抗が低いため高い電池性能を実現しやすい

課題:

  • 空気中での安定性が低く特殊な環境での製造・封止が必要
  • 電池全体の安定性を向上させるための研究が必要.

2. 酸化物系電解質(Oxide-based Electrolytes)

代表的な材料:

  • Li7La3Zr2O12(LLZO)
  • Li3xLa2/3-xTiO3(LLTO)

特徴:

  • 硫化物系に比べて化学的安定性が高く大気中でも取り扱いが容易
  • 機械的強度が高く構造安定性に優れる
  • 硫化物系ほどの高いイオン伝導性はない(10–4~10–3 S/cm)
  • 界面抵抗が高く,電極との密着性が課題

利点:

  • 環境安定性が高く大気中での取り扱いが容易
  • 長寿命で耐久性に優れる

課題:

  • 界面抵抗が高いため電極との相互作用を改善する必要がある
  • イオン伝導度が硫化物系よりも劣るためさらなる改良が求められる

3. ハライド系電解質(Halide-based Electrolytes)

代表的な材料:

  • Li3InCl6
  • Li3YCl6
  • Li2ZrCl6

特徴:

  • 中程度のリチウムイオン伝導度(10–3 S/cm)
  • 酸化物系と硫化物系の中間的な特性を持つ
  • 電極との相性が良く安定した界面を形成しやすい
  • 空気中での安定性は酸化物系ほど高くないが硫化物系よりは良好

利点:

  • 界面抵抗が低く電極との相性が良い
  • イオン伝導度が比較的高く全固体電池への応用が期待される

課題:

  • 空気中での安定性が硫化物系より良いが酸化物系ほどではない
  • コストやスケールアップの課題が残る

固体電解質の比較表

種類代表材料イオン伝導度 (S/cm)界面接触性空気安定性製造の難易度
硫化物系LGPS, Li3PS410–3~10–2優れている低い(H2S発生)高い
酸化物系LLZO, LLTO10–4~10–3劣る高い中程度
ハライド系Li3InCl6, Li3YCl610–3良好中程度中程度

まとめ

固体電解質は全固体電池の実現に向けて不可欠な材料であり,「硫化物系」「酸化物系」「ハライド系」の3つが主要な候補として研究されています.それぞれの特性には一長一短があり,用途や目的に応じて適切な電解質を選択する必要があります

今後の研究では,イオン伝導度のさらなる向上,界面抵抗の低減,製造コストの削減などが課題となっています.特に,硫化物系の高いイオン伝導性を維持しつつ,安定性を向上させる方法や,酸化物系の界面抵抗を低減する技術の開発が進められています.全固体電池の実用化に向けた進展が期待される分野です.